STORY

史実

1789年7月、フランス革命が勃発。
ルイ16世とマリー・アントワネットは処刑され、ルイ17世は幽閉されていたタンプル塔で10歳の若さで亡くなってしまう。だが、塔の中で亡くなった少年は偽物で、本物のルイ17世は生きているという噂が後を絶たず、実際に自分がルイ17世だと主張する者まで現れた。

20世紀に入りDNA鑑定によってその謎は大きな進展を見せる。タンプル塔で亡くなったルイ17世のものとされる200年前の心臓のミイラと、ハプスブルグ家に代々伝わるロザリオの中から発見されたマリー・アントワネット等の毛髪をDNA鑑定したところ、心臓はルイ17世本人のものと断定された。その心臓は、現在もフランス王家の墓があるサン=ドニ大聖堂に両親と共に眠っている。

Scene

 





Symphony of The Vampire

1793年1月21日――ルイ16世崩御。タンプル塔に閉じ込められたノルマンディー公爵ことルイ17世(※以下ルイ)は、番兵の暴力と脅迫を受け続けていた。暴力とともに繰り返される罵倒や脅迫は幼い身体だけでなく、小さな心まで孤独のどん底に突き落とした。このまま陽の当たらない牢獄で最期の時を迎えるはずだった。

同年9月19日――満月の晩、彼は何者かによって連れ出された。塔の中に身代わりを残して。遠くに身を潜めるためにパリを離れたのは皮肉にも母マリー・アントワネットが処刑される10月16日。馬車は歓喜に溢れるコンコルド広場の脇を駆け抜けた。

1795年6月8日――タンプル塔に残された身代わりの少年が亡くなった。その心臓は検死を行った医師がコートのポケットに入れて持ち出した。彼は心臓をワイン漬けにして自宅の書棚に隠していたが、時を経た心臓は石のごとく硬くなってしまった。

一方、パリから連れ出された本物のルイ17世はサンジェルマン伯爵からヴァンパイアの血を与えられ、ピラミッドの中へと運ばれた。深い眠りの中で生死を彷徨っていた。昏睡常態の中で見た夢は革命前に家族と過ごした穏やかな日々。夢の中だけでは愛を感じることが出来た。

そして1805年。20歳となったルイは意識を取り戻す。同時に身体の疼きが止まらなくなっていた。血が欲しくて堪らない。眠っている間にヴァンパイアの血を与えられ覚醒したのだ。自分ではその渇望をコントロール出来ない。ルイは血に飢えた青年期を過ごした。

人間の血を貪る獣と化した彼を救ったのは音楽だった。人猟中にある館から聞こえてきた旋律は、欲望に狂ったルイに理性を与え力を漲らせた。ピアノを奏でる音楽家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。彼もまたヴァンパイアだ。

二人はすぐに意気投合し、様々な思想を語り合い、ルイは彼から音楽を学んだ。
ベートーヴェンは人間の娘を愛していた。そして愛する者の為に血を吸わないというのだ。彼曰く「美しい旋律は血の代わりとなる」。その旋律で実際に救われたルイだが、頭ではその意味を理解しているものの、愛というものに対し未熟な為、血を吸わないという選択はまだ理解出来なかった。
ベートーヴェンは次第に耳が聞こえなくなっていた。人間を愛してしまった罰なのだろう。耳が聞こえない以上、どんなに美しい旋律を奏でていても自分の糧には出来ずいつかは死んでしまう。それでも彼は愛する人間の為に血を吸わなかった。

やがて何も聞こえなくなってしまうと、彼はルイに全てを話した。タンプル塔からルイを連れた出したのは自分だという事。そして、それはルイに未来の王になってもらう為だという事を。

しかし今のルイには何も出来なかった。“ルイ17世”は1795年にタンプル塔で亡くなった事になっている。もし今名乗り出たとしても、誰も自分がルイ17世だと知る者はいない。今はまだその時ではないのだ。自らに与えられた永遠の命、そして体を流れる王家の血を信じて彼は闇に身を潜め時を待った。

1975年――身代わりの少年の心臓は、ルイ16世やマリー・アントワネットの眠るサン=ドニ大聖堂へ移された。医学の発展により、やがてDNA鑑定でその心臓が偽物である事がばれてしまうのを恐れたルイ17世はサン=ドニ大聖堂へ向かった。
並べられた王家の墓。そこには1795年にタンプル塔で亡くなった身代わりの少年の心臓が飾られていた。もしもこれがルイ17世の心臓ではないと知られれば王家はその権威の全てを失うだろう。フランスの歴史に泥を塗るようなものだ。それは絶対に防がなければならない。

友が遺した言葉「美しい旋律は血の代わりとなる」もしそれが本当ならば、美しい旋律たちが体を巡りルイの命を繋ぐ。
ルイは偽物の心臓をガラスの器から取り出し、自らの心臓をえぐり出して息を吹きかける。そしてその心臓をガラスの玉座に座らせた。これがフランス国王ルイ17世の悲しく、そして雄偉なる即位である。

そして2004年。DNA鑑定が行われ、その心臓はルイ17世本人のものと無事断定された。
王冠なき王の心は現在もフランス王家の墓があるサン=ドニ大聖堂に両親と共に眠っている。

Character


 





2004年。人間の血液で発電に成功したというニュースを知ったルイは研究者がいる日本へ。死者に自らの“特別な血”を与え、眠らせたまま血を作らせ発電し生み出される新エネルギー「エミグレ」を立ち上げ、理想世界の創造を始めたルイ。だが、ルイは200年前のフランス革命中に死んだ事になっているため、正体を明かすことが出来ず、その制度を思うように広めることが出来ていなかった。

そんなルイの代わりにとサンジェルマン伯爵が自ら表舞台に立ち血の発電による新エネルギー「エミグレ」を発表し脚光を浴びる。
不老不死の体を持つとされる伯爵の存在は既にヨーロッパ最大のミステリーとされていたため、様々なメディアがこぞって紹介した。血での発電を倫理的に問題視する声も多かったが、社交界を虜にした持ち前の話術を駆使して「エミグレ」を説き、人々を賛同させていった。

自分では出来るはずもない方法で「エミグレ」を広げ、着々と理想世界を創り上げて行く伯爵にルイは心強さを感じつつも、同時に不安を抱き始めていた。

取材を受ける伯爵の言葉の中にあった「見せしめ」という言葉。フランス革命で父と母がギロチンにかけられ処刑されたルイは、彼らの処刑も「見せしめ」だったのではないか?伯爵は彼らを救うことが出来たのではないのか?そんなが疑問が頭を駆け巡る。葛藤を繰り返すルイは自らの代わりにタンプル塔で亡くなった少年に想いを寄せ、自身を納得させようとしていた。




 





世界的なエネルギー不足を予知していたサンジェルマン伯爵は「エミグレ」を世界に広めるべく、ルイと共にアメリカを訪れた。彼らを待ち受けていたのは伯爵と共にエミグレ実用化に向けて動いていたDOE(アメリカ合衆国エネルギー省)長官の暗殺、そして「エミグレ」の対抗エネルギーである「シェールガス」担当者マシュー・ウィルソンの謎の死だった。大統領の指令でNSA(アメリカ国家安全保障局)の捜査に協力する事になった伯爵はクリストファー捜査官らと共に一連の事件にクリムゾンファミリーが関係している事を突き止める。

フランス革命最後の舞台であるワーテルローの戦い以降強大な力を持ったとされるクリムゾンファミリー。ナポレオンが敗れたことによりイギリス軍の勝利となったその戦いはサンジェルマン伯爵によって仕組まれたものだった。伯爵はナポレオンにわざと戦に負けるによう指示し、その身柄をクリムゾンファミリーに匿わせた。

ナポレオンが“永遠の命”を持つと知ったクリムゾンファミリーは自らも“永遠の命”を手に入れるためにナポレオンをコードネーム“ナンバー3”と呼び200年以上もの間ロンドンの収容所に匿い研究を続けた。彼らは長年の研究によってナポレオンの体から“永遠の命”の源と思われる成分を抽出、さらには“老化プロセスの停止”を無効にするワクチンを生み出した。

クリムゾンファミリー七代目となるエヴァンは、自らの娘アンジェラに“永遠の命”を与えようと彼女の婚約者リチャードにナポレオンから採取した血液を投与させるが失敗に終わる。アンジェラは眠ったまま目覚めない体となってしまう。



エヴァンは「エミグレ」を広めるためにメディアに現れた伯爵を見逃さなかった。ナポレオンの血で不可能だったのならば伯爵の血こそが間違いなくその源血。その血を持つ“OSCAR”だと確信し標的を伯爵に変えた。“ナンバー3”と伯爵の身柄を交換する取引を伯爵に持ちかけ伯爵は応じた。その取引は銃撃戦となり、クリストファーの上司カールソンが銃で撃たれ意識不明の重体に。幸いクリムゾンファミリーのもとから自力で脱出した“ナンバー3”ことナポレオンの助けによりそれ以上の被害は抑える事が出来た。

一連の流れを大統領に報告するためにホワイトハウスを訪れた伯爵だったが、エヴァンに捕らえられ遂にその血を奪われてしまう。そして伯爵の持つ力“老化プロセスの停止”を無効にするワクチンを打たれ、伯爵は1ヶ月後に死亡してしまう。
エヴァンは伯爵の血で研究を続け、今度こそ“永遠の命”を手に入れようと試みるが、またしても失敗に終わってしまう。伯爵も“OSCAR”ではなかったのだ。

深刻なエネルギー不足に直面していた世界中の人々は「エミグレ」を渇望していた。伯爵の死により「エミグレ」の実現が不可能になってしまったと絶望に暮れる人々。

そんな人々の前に、真の“OSCAR”であるルイが現れ、世界を救う。